文化の日

文化勲章の受章
 文化勲章は戦前の1937年に制定されたもので、科学技術や芸術などの文化の発展や向上にめざましい功績のある者に授与される日本では最高ランクの表彰である。ところが、この勲章を簡単に受賞する方法があり、それは海外でノーベル賞やそれに相当する表彰を受けることである。今年も3人のノーベル賞受賞者と数学分野のガウス賞受賞者が含まれている。


 ここではガウス賞伊藤清先生について、今話題の金融問題とも関係しているので、述べておきたい。ノーベル賞には数学の部門がないために、およそ67カ国が加盟している国際数学連合が4年に1度ノーベル賞に匹敵する「フィールズ賞」を出して、小平邦彦広中平祐先生をはじめ、これまでも何人かの日本人が受賞してきた。これは主として純粋数学部門の賞であったが、経済とか工学の実用部門、即ち「社会に貢献した数学理論」への賞として「ガウス賞」を設立されて、2006年の第一回の受賞者として、本年度文化勲章受章の京都大学名誉教授の伊藤先生が選ばれた。

 新聞では「金融革命を生んだ方程式」などと見出しが付いているが、先生のお仕事は金融部門への応用を目的としたものではなく、確率的に変動する変数を取り扱う幅広い問題で適用可能である。この世の中の現象は確率的な事象として扱わなければならないことはたくさんあるので、物理学、工学、生物学などの領域できわめて応用範囲の広い方程式ということになる。確率的な変数を使った微分方程式ということで確率微分方程式と呼ばれている。

 1997年にノーベル経済学賞を受賞したデリバティブ理論に、伊藤先生の方程式が使われているのでNYのウォール街で最も有名な日本人などと形容されているが、この話には多少誇張があると思う。これは、現在100円の債券を「3ヶ月先に110円で売る権利」をいま買うときに、この価格をいくらに設定すれば適当かという値を求める式である。3ヶ月先にこの債券が90円になっていたとしたら、この権利の保有者は90円で購入して110円で売ることができるので、20円の儲けを得ることができる。ただし、購入価格が5円とすれば、儲けは15円ということになる。この購入価格を決める理論である。

 現在では、普通の連立方程式でこの価格を決めることができるし、その他、モンテカルロ法で求める方法なども提案されている。確率微分方程式を解析的に解くことは難しいが、数値的に答えを出すことはエクセルを使えば、女子大のビジネスコースの学生でも簡単にできる。

 得られた無数の曲線から、過去の株価変動などの実績データに合うものを選び出すことで、数値解を見つけることが出来る。文化の日に因んで、少し大学の講義を再現したようなな気分である。伊藤先生の書かれた確率過程の本は岩波から出版されているが、理解するにはかなり難解なものである。
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