合理的思考の限界

米国の研究所
 米国には自然科学や社会科学に関する様々な研究所が国立、私立を問わず存在している。原爆開発を主導したロスアラモス研究所、半導体やコンピュータなどを開発したベル研究所(現在は別名)、数学理論の応用などのランド研究所など自然科学系のところでは、それぞれノーベル賞受賞者を20名前後擁している。


 ランド研究所は第二次大戦での、日本攻略など空軍の戦略を立てた組織が主体となり、航空機メーカーのダグラス社などの傘下で発足した研究所である。ここでの基本的な思想は合理的な選択基準という、ものごとをすべて数値に置き換えて甲乙を付けるという方法である。このように合理主義に徹していれば、どのような問題に対しても答えを見つけることができるという信念に基づいている。

 この信条の背景を支える道具は、オペレーションズ・リサーチ、数量的システム分析、ゲームの理論など、コンピュータで答えを算出するシステムだ。この手法で、戦後の米国は核戦力を基にしてソ連との冷戦構造を作り上げて、さまざまなレベルでの戦い、報復、再建などの緻密な戦略を構成して、時の政府を支配してきた。

 経済学の基本の一つに、人は合理的な判断に基づいて意思決定をすることがある。合理的選択論はこの意味では正しい。核抑止論もこの原理に基づくもので、この論を推し進めると、地球を破滅させるところまで、核兵器を肥大化させなければならないことになる。

 ファイナンス理論でも、人間の合理的な判断では説明つかない現象がたくさんあり、これらは心理学を導入することで、解決する道が開かれてきている。世界を混乱させている金融危機も、合理的基準で構成されているファイナンスの理論の限界が露呈したとも思える。合理的判断には常に危険が伴うことが忘れられてきた。
*Alex Abellax著「ランド 世界を支配した研究所」文芸春秋 2095円
http://iiaoki.jugem.jp/