悪の根源

金融工学は悪の根源か
 午後10時前後に出てくる有名なTVのニュースキャスターは金融工学を指して、世界的な金融混乱の悪の根源みたいな言い方をよくしている。また、大新聞でも「成長をけん引する足とみなされてきた金融工学が、ひどいまやかしであったことが露呈した」などと解説している。

 金融工学なる学問を少しでも勉強してみれば、すぐに分かることであるが、この学問では金儲けの手段を教えてはくれない。ファイナンスは明日のことであるが、ダウ平均株価が明日下がるか上がるかは2分の1の確率であると教えているだけである。また、できるだけ投資は分散しなさいと当たり前のことを言っている。

 すべての悪の根源はどうやら金融工学なる学問にあるみたいであるが、本当に金融工学がそうなのであろうか。関係する専門書を見ると、何やら呪文のような記号がたくさん使われていて、多少は数学の好きな人でも辟易するかもしれない。基本的な学問は確率過程論というもので、簡単にいえば将来の現象を予測することである。

 基本となるところで、本年度文化勲章を受章した故伊藤清先生の功績が大きい。だからと言って先生が金を稼ぐことを目的として研究をしたわけではない。確かに、先生の基本的な方程式を使って、オプション価格などのデリバティブなる理論が組み立てられている。

 しかしながら途中を飛ばして、結論を言えば、金融工学は確実に金を稼ぐ方法は教えてはくれない。だから、世の中に氾濫している「株式投資で確実に儲ける方法」というような書物はすべてまやかしであるということが理解される。未来のことは神のみぞ知る世界である。
*読売新聞「編集手帳」平成20年12月22日
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