仏大統領と教養

クレーヴの奥方と教養


7月14日はフランスの独立記念日である。それにふさわしいかどうかは分からないが、教養とは何かについて考えたい。クレーヴの奥方(La Princesse de Clèves)はラファイエット伯爵夫人が書いた17世紀後半のフランスの小説で、今でいうところの不倫物語というか恋愛心理小説の祖とも言われる。この小説がフランス議会で朗読されたというニュースが伝えられている。


ことの発端は、サルコジ大統領がこの小説についてさまざま発言したことによる。「大統領になるために、クレーヴの奥方を読む必要はない」、「公務員の国家試験科目を見ていたら、どこのサディストか馬鹿者が決めたんだか、クレーヴの奥方を出題しているじゃないか」、「学校でクレーヴの奥方を読んでも何の役にも立たない。若者が古典から学ぶことは何もない」などという発言に対する反論である。


 フランスは日本と同じように、いまだにエリート校と言えば国立であり、これに対する予算の削減に大統領は頭を痛めている。大統領の考えでは、社会ですぐに役に立つ工学、技術、経済、経営、医学などには金を惜しまないが、文学など無駄な事には予算を回したくはないということのようだ。これに対して、多くの教員や研究者から反大統領の声が出されている。


 突き詰めれば、この問題の背景には教養とは何かという大命題がある。戦後の日本の4年制大学では、前期は教養科目を履修して、後期は専門科目を履修する制度が続いていた。教養の狙いは、文系理系を問わず、自然科学、社会科学、人文科学の各分野を広く総合的に学習することにあった。



 1991年から専門科目重視の方針に流れが変わった。端的にいえば、社会ですぐに役に立つことを大学で教えるべきであるという論拠である。事実、これに従って、わが大学では役に立つ学問を中心としてカリキュラムを構成しているとパンフレットで宣伝しているところが見受けられる。しかしながら、変化の激しい社会では、すぐに役立つことは、また直ぐに役に立たなくなることも事実である。



*教養:Liberal Arts

東京大学教養学部The University of Tokyo Graduate
School of Arts and Sciences

http://www.wowow.co.jp/pg/detail/021319001/

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/
toushin/020203/020203a.htm#02

http://www.c.u-tokyo.ac.jp/message/index.html