今さらマルクス

マルクスの理想

  資本論で有名なマルクス(Karl Heinrich Marx, 1818 - 1883年)の思想は社会主義国のバイブルと思っている人が多いと思うが、死後50年後にモスクワを訪れたマルクスがみたのは、社会主義に名を借りた独裁恐怖国家だった。1949年10月に誕生した中華人民共和国では、マルクスは自分の理想が実現されると楽しみにしていたが、これも裏切られた。北朝鮮に到っては論外である。それではマルクスの理想とは何だったか。
 

  1つには、国家が資本を管理することで、資本主義の経済を凌駕できるということだ。2つめは、各地域に形成されたコミュニティの中で生活することで人は幸せを確保できるということだ。3つめは、社会主義経済は最後に生き残るシステムというものだ。まとめれば、貧富の格差がない豊かな生活を保障した社会を実現するための理想的な思想で、これこそマルクスが描いた夢だった。

  資本の国家管理を実現するためには、どうしても個人や党の独裁を生みやすく、個人の自由が制限されて、いまの中国や北朝鮮みたいな国となってしまう。ロシアは選挙もあり社会主義から離れているようであるが、ソ連時代の残滓を色濃く残している。これまでの社会主義国家では、マルクスの描いた資本の国家管理は難しいことが証明されてしまった。

  1945年から1985年ころまでの日本では、永田町と霞が関の規制と統制が強くて、マルクスの描いた資本の国家管理に近づいたようだった。企業でも本来の持ち主である株主を無視して、配当は低めに抑えて、保養所、社宅、病院など従業員の福利厚生に力を入れ、年功序列制で毎年定期昇給することで、働く人に安心感と将来への希望を与えてきた。

  その上、国鉄や郵便制度なども国家管理で、まるでマルクスの描く社会主義体制みたいで、企業がコミュニティとして機能していたので、従業員は安心感を持って企業に忠誠をつくした。1980年頃には一億総中流と言う意識になり、まさに、マルクスの描いた2つめの理想像を実現させたようだった。

   その社会が崩壊に向かわせられたのが、欧米の資本により土地価格の上昇、株価の上昇というバブル経済へ導かれた事だった。いずれ崩壊が来るであろうと誰もが思っていた。その後に訪れた社会は、まさに本来の資本主義経済の社会で、規制緩和というお題目のもとで、安心社会のすべてを失ってしまった。

   20世紀での社会主義の実験はソ連邦の崩壊で終わってしまったが、勝利したはずの資本主義も、2年前の経済破綻でその欠陥を表してしまった。それに合わせたように登場したオバマ大統領は、当初は救世主のごとく熱狂で迎えられた。資本の国家管理へと針を左に振ったが、個人の自由を金科玉条とする米国では、必ずしもうまくいかず、11月2日の中間選挙でその運命が決められる。
三田誠広 著「マルクスの逆襲}集英社 700円

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