座右の銘

信解

  ビジネスで成功した人には必ず座右の銘としている言葉がある。なくてもマスコミなどで人物紹介された時に恰好をつけるために、誰かの言葉を持ってくることもあるだろう。これらの言葉には関心はあっても、なるほどとは思うものの、直ぐに忘れてしまう人も多いと思う。創業者の語録としては松下幸之助氏や本田総一郎氏のものが文庫本になっている。



  松下語録の中に信解という言葉があったが、よく意味がわからないままに頭の片隅に残されていた。最近、ネット上でこの言葉を見かけて、これは「しんげ」と読む仏教用語であることを知った。「信あって解なければ無明を増長し、解あって信なければ邪見を増長する。信解円通してまさに行のもとと為る」と経本に出ている。深い意味はわからないが、人の行いを決める感性と理性の関係を言うようだ。


  ゲームでもスポーツでも、それに対する知識を深め、練習することである程度までは誰でも習熟することが可能である。しかしながら、この信解の精神を体得することはプロでも難しいことを知った。全英オープンゴルフで、過去5回も優勝しているトム・ワトソンの最後のパットにあらわれていた。10フィートのパットを沈めるだけであったが、なんと彼はホールに届かないパッティングをしてしまった。


  プレーオフの末にチャンスを逸した後の記者会見では、「最後は年のせいでガス欠状態だったか」という記者に質問に「そう見えたか、そんなことはない」と答える姿を見て、彼でも信解の精神からはほど遠いと思った。予選落ちしたタイガー・ウッズも、ミスショットに腹を立てて、クラブを投げつけたりする姿には失望を覚えた人もいるだろう。


  再び松下先生の本に帰ると「人と自然の結びつきが円滑かつ能率的に運ばれるためには、信解ということが基盤にならなければならない」と活動の原動力の中に出ている。英語で表現すれば、理解と行動とのコンシスタンシー(consistency)となるだろう。まことに、迷いのない疑いを持たない境地で、自然に行動することの難しさは永遠のテーマとなるようだ。


松下幸之助著『経営心得帖』(PHP研究所、1974年7月)
http://iiaoki.jugem.jp/
http://twitter.com/#!/goroh