ベーシック・インカムの導入

理想的なバラマキ
  税と社会保障の抜本改革の話を6月末までに結果を出すとの調査委員会が行われている。新聞にも詳細な解説が掲載されているが、読んで理解するには骨が折れる。どうみても国民にとっては、負担が増えると言うことが骨子だとは分かる。様々な案が各党および新聞社から出されているが、基本的な事にはあまり変化はない。要するに、システムを複雑にして、事務手続きを煩雑にすることで、従来と同じように、国民の目を誤魔化す仕組みと思われる。
  

  毎回、委員会には恐らく、いろいろな資料が提出されていることだろう。これらの資料は各委員たちが持ち寄って作るわけではなく、それぞれ担当の役所で官僚たちが画面をにらみながら制作する。彼らの仕事は、制度を複雑にすることで、将来にわたる権限を握り、天下りポストに絡められるようにすることだ。明治以来、このようにして官僚組織が強固に出来上がってきた。

  さて、それでは、役人の手間を省き、国民の誰もが公平感を持てる制度として提案されているものが「ベーシック・インカムBI」であろう。限られた税収のもとで、公平で偏りの少ない所得の再分配をする制度である。その骨子は、手続きが簡単、中抜きがない、使い道が自由の3点がある。これこそ、役人の手間を省き、口うるさく使い方まで介入させない理想的な方法なのだ。自分たちの手間暇を省くシステムは絶対に役所からは出てこない。

  優れた制度である健康保険制度はそのままにして、年金、雇用保険生活保護などの社会保障をすべてBIに置き換える。自動的に毎月各人に一定額を支給する仕組みだ。もちろん、特別な審査などは不要だ。毎月5万円を各人に配るとすると、人口を仮に1億人とすると、年間60兆円となる。現在の社会保障給付は年間90兆円程度であるが、そのうち医療関連は30兆円なので、それを除くと60兆円となる。これに消費税分10兆円を乗せると70兆円だから、人口を1.2億人としても可能な数値となる。

   夫婦と子供2人の4人家族なら、月額20万円の支給だから、十分とはいかないが生きてはいける最低保証だ。理想的なセイフティーネットが構築できる。しかも、事務手続きを軽減できて予算を減らすことができる。予算のムダ遣いこそが役人のたちの財源だから、役人からは出てこない発想だ。これを詰めていくことと、地方分権を確立することで、中央政府で残る省庁は外務省と防衛省だけとなり、後は内閣府で処理できる事になる。明治政府から続いてきた中央集権制度にさよならをすることが可能だ。


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