地理学者

フェルメール作品
  サッカーを除いてはEUの小国であるが、欧州を支配したのは16世紀ではポルトガル、17世紀ではオランダと大まかに考えられる。今ではポルトガル財政破綻状態でEUのお荷物となっている。日本との関係では、戦国時代にはポルトガルの宣教師の来日、徳川時代には長崎の出島のオランダとの関係が深かった。その17世紀にオランダのデルフトが生んだフェルメール(1632 - 1675) の名作「地理学者」が、渋谷文化村のザ・ミュージアムに来ている。この作品は現在、フランクフルトのシュテーデル美術館所蔵のものである。
 

  災害と原発事故の影響で予定されていた海外からの美術作品の展示が不可能となり、各地の美術館では困惑しているが、この作品は3月11日以前から展示されていて5月22日までの予定だ。フェルメールの全作品37点に描かれている人物は殆ど女性であるが、男性が単独で描かれている作品はこの作品とルーブルにある「天文学者」だけである。 モデルは同一人物でフェルメールの友人であるレーウェンフック(1632 - 1723)と言われている。

  彼は役所勤めの傍ら、地球や宇宙の科学だけでなく、カメラや顕微鏡を自作して微生物を研究する科学者だった。両作品とも人物だけでなく部屋も同じで、衣装は日本の着物の変形であり、日本との関係を伺わせる。天文学者の目は天球儀で宇宙を見つめているが、地理学者の視線は窓の外にあり、これから展開する近代科学への未知なる世界への道を示しているように思える。災害と原発事故で、当面、海外からの美術作品は日本へは来ないようなので、せめてこの作品だけでも堪能しておきたい。