ドルは持ちこたえられるか

金とドル通貨の状況
   金価格の上昇については「投資資金の行き先がなくて、金に回っている」からという説明と「金価格の上昇は基軸通貨であるドルの価値が下落している」からという説明である。金本位制の時代だと、通貨自体を金で鋳造したり、通貨と金との交換を保証したりすることで、通貨の価値を一定に保つ仕組みだ。ところが、金の産出量は限られているから、経済の規模が拡大すると通貨の増発に制約がかかることになった。金の供給が経済の拡大のペースに合わなくなってしまった。

   1971年8月のニクソンショックによって、米国のドルが金との交換を停止した。基本的に全ての通貨は金とのつながりを解消したことになる。それぞれの国の通貨はドルとの交換比率を表示することで、その価値を表現することになった。1980年代に入り、日本やドイツの経済発展で、米国の経済優位性に次第に陰りが出てきた。90年台に入り、IT革命によって再び米国は経済力を高めたものの、その勢いは長くは続かず、2000年にITバブルが弾けると、金融を中心とした経済構造に向きだした。

    2001年9月の同時多発テロによって、圧倒的な軍事優位性にも影が差してきた。さらに、住宅バブルが崩壊し、2008年9月のリーマンショックによって、財政赤字が増大して、米国の比較優位性に打撃を与えた。この事態に対応するために、米国FRBは二度の量的緩和策を実施し、通貨供給量を積極的に拡大した。輪転機を回してドル紙幣を刷って、市中にバラまいたのだ。ドル紙幣は世界中に流れ出し、ドルの価値を下落させた。19世紀末に、英国の没落でポンドが勝ちを失い、ドルの世紀が始まったように、これでドルが価値を失い他の通貨に代わる事がありうるのだろうか。