日本の製造業を考える

中国ファンドによる買収劇

  いま書店に山積みされている真山仁著「レッドゾーン」に出てくる話は、中国政府の資金の入ったハゲタカファンドが、日本のトップの自動車会社を乗っ取る話である。小説の結末は、日本のファンドと創業家の若い副社長が中心となって、この難局を切り抜けることに成功することとなる。鉄と車は20世紀の日本の高度成長期を盛り上げた主役である。鉄の方は川鉄とNKが2002年に統合してJFEとなったし、さらに来年には新日鉄と住金が合併する事となって、企業体質を固めてきた。

  

  車は省エネの高性能な小型車で米国本土に上陸し、その後は工場を米国本土に日本の大手三社とも工場を建設した。これにより米国の雇用にも貢献して、20世紀の終わりから今世紀にかけては好調を持続してきた。その後、出る杭は打たれるという格言どおり、暴走欠陥車問題でトヨタ車は米議会を始めとしてたたきに叩かれた。この問題の真相は謀略説の方が強いが、その後の米国市場では負け続きだ。


  本年度上半期における米国の新車販売台数では、日産やホンダは前年度実績に対してプラスだが、トヨタのみマイナスとなっている。トヨタ車の米国でのシェアは全盛期には20%近かったが、現在は10%そこそこだ。中国市場でもシェアを3年前の10%から、現在は半分近くにまで落としている。


  20世紀に日本経済の底ちからを見せたトヨタは未曾有の危機にさらされていると思う。小説ではないが、このままでは中国資本に買収されるのではないかとの噂が欧米の金融機関でもささやかれていると言う。復活の条件は20世紀末の鉄鋼業と同じで、余剰設備の削減であり、米国市場での信頼回復、新興国市場での市場開拓である。小説では禿鷹の爪から逃れた創業家の副社長は、現在、社長となりその手腕が期待されているが、いまのところ、欧米の投資家をうならせる成果は出されてはいない。

真山仁著「レッドゾーン上・下」講談社文庫