経験から学べるか

成功と失敗
  新しい組織が発足した時に、その長として過去に成功体験を持った人をつける場合が多い。そしてその結果、たいていはうまくいかない。何故ならば、世の中が急速に動いているから、その人が成功した時代と現在の環境はかなり変化しているからだ。また、ユニクロの社長が言うように、成功者の最大の欠点は自分の成功体験を捨て切れないからだ。いわば、彼によると、成功という名の失敗をしたと決めつけている。

 それでは失敗例から学ぶことができるかもしれない。経営や戦略がうまくいかないと「原因を究明して、二度とこのようなことが起こらないようにする」とトップは反省する。それでも人は同じ過ちを繰り返す。何故ならば、「学んだのではなく、学んだつもりになっていた」からだ。失敗に学ぶことは、理屈で因果関係を説明することではなく、原因究明の発見から、これまでの見方や考え方を変え、基本的に自己改造をするために、組織やチームの視野を広げて行くことが重要だ。

   社長の言葉に戻ると、商品の企画段階で売れる要素を予測することは不可能だから、常に安定志向を排除する強い意志が売れる商品を生み出すという。過去の成功体験をばっさりと切り捨て、新たな状況を創造することが、組織や人の硬直化を防ぐ道のようだ。太平洋戦争の惨憺たる敗北は日露戦争の成功体験にこだわりすぎたからと言う説明もある。以上の理屈を敷衍すれば、ユニクロもやがて落ちぶれるだろう。



柳井正著「成功は一日で捨てされ」新潮社 ¥1400.

*清水勝彦著「失敗から学んだつもりの経営」講談社 ¥1575

戸部良一ほか著「失敗の本質 日本軍の組織論的研究」 中公文庫 ¥762