原発停止に思う

原発事故の責任者

   原発全運転停止という事態に遭遇して、あらためて当時のことが思い出されて来た。内閣府原子力安全委員会の委員長は、原子力安全委員会の重責を認識する人でなければならなかった。「東大で安全規制行政など原子力社会工学を研究してきたエリート中のエリートで、漫画を描くことが趣味でHPにも掲載した事がある」と言うような人は適任ではなかった事を示した。事故直後のNHKニュース9に登場していた斑目氏に「今後の見通しは」というキャスターに質問を振られた時の斑目氏の身振り顔つきには誰もが驚いたことだろう。何か言葉にならない嘆声と共に頭を振って、身震いするように肩をすくめながら、「とても、とても、とても、そんな、見通しなんて言える状況じゃないですよ」と手を振っていた記憶は生々しい。天から降ってきた難題に呆然自失して、途方に暮れて為すところを知らずという子どもみたいな様子だった。いかにも東大の先生だったような細縁の眼鏡、グレイのスーツだが、その身振りは全く原子力の安全を任されている専門家としてのしぐさではなかった。

    事故翌朝の被災地視察に、管総理のヘリで同行して、総理の質問に「大丈夫、大丈夫だ。水素爆発は起きない」と繰り返していたそうだが、その8時間後に1号機で水素爆発が起きた。六ヶ所村核燃料再処理施設問題を追ったドキュメンタリー「六ヶ所村ラプソディー」を作った監督は、「当事者意識の薄い喋り方をする人」と評しているそうだ。国家に対し重要な責任を負うポジションにある人は、必ずしかるべき人でなければならないと思う。優れた研究者が危機管理能力に優れている訳ではない。大学教授としてのキャリアが、そのまま実世界の責任を伴う職責に適しているわけではない。むしろアカデミックの世界だけしか知らない先生方は、このような領域での仕事を安心して任せるわけにはいかにと思ったほうがよい。