論文捏造(1)

論文を書かない者は去れ
    旧帝大の国立大学では論文1本のコストが1000万円以上もするとのことだ。これは要するに、論文を書いている人が少ないということを表している。学校教育法58条によると「教授は学生を教授し、その研究を指導し、または研究に従事する」と規定されている。教育と研究が大学の先生の2大使命である。しかし研究の結果を論文にして公表しろとは書いていないので、別に論文を書かなくても首になることはない。
  
 
    米国の理工系の大学や研究機関では、書かない者は去れ「Publish or perish」という言葉があり、どこの大学でも研究所でも研究資金の獲得と論文書きに追われている先生方が多い。また、大学では授業のない夏休み期間は通常は給料がないので、この期間は企業のコンサルタントなどをして稼いでいる先生もかなりいる。

    こうなると、無理やり論文を書いたり、ひどい場合には論文の捏造まで生じることとなる。特に不正論文の多いバイオの分野では研究公正局(ORI)という公の機関まで存在している。1992年にアメリ国立衛生研究所(NIH)に設置されたが、現在は独立した組織となっている。バイオ研究では不正行為で作られたデータが市民の健康に影響することもあるのでチェックが厳しくなっているようだ。年間200件の告発があり、実際に不正や捏造が摘発されるのはその1割程度という。

    物理の世界での最大の論文捏造事件は1998年から2002年に起きたシェーン博士の事件である。対象は高温超電導に関するもので、舞台は半導体開発で有名なベル研究所(現在はルーセント・テク社所属)である。驚くべきことに、研究者のあこがれの的である英国のネイチャー誌や米国のサイエンス誌に立て続けに論文が掲載されて、ノーベル物理学賞受賞は間違いなとまで言われていた。これについては、話が長くなるので別途、まとめさせていただくこととする。

    研究者は先端的なことを研究して、その結果を論文としてまとめなければ、研究者として生きている意味がない。そうなると多少は背伸びしてでも論文としてまとめたいとの欲望が出てくる。背伸びが過ぎれば捏造の領域に入り、論文偽装ということになる。研究者は絶えず何かに追いまくられ、如何にして独創的な先端的な成果を上げることに追いまくられている存在なのだ。